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七 - 2
したが、ふと思い出した事がある。うちの主人は時々手拭と石鹸(シャボン)をもって飄然(ひょうぜん)といずれへか出て行く事がある、三四十分して帰ったところを見ると彼の朦朧(もうろう)たる顔色(がんしょく)が少しは活気を帯びて、晴れやかに見える。主人のような汚苦(むさくる)しい男にこのくらいな影響を与えるなら吾輩にはもう少し利目(ききめ)があるに相違ない。吾輩はただでさえこのくらいな器量だから、これより色男になる必要はないようなものの、万一病気に罹(かか)って一歳何(なん)が月(げつ)で夭折(ようせつ)するような事があっては天下の蒼生(そうせい)に対して申し訳がない。聞いて見るとこれも人間のひま潰(つぶ)しに案出した洗湯(せんとう)なるものだそうだ。どうせ人間の作ったものだから碌(ろく)なものでないには極(きま)っているがこの際の事だから試しに這入(はい)って見るのもよかろう。やって見て功験がなければよすまでの事だ。しかし人間が自己のために設備した浴場へ異類の猫を入れるだけの洪量(こうりょう)があるだろうか。これが疑問である。主人がすまして這入(はい)るくらいのところだから、よもや吾輩を断わる事もなかろうけれども万一お気の毒様を食うような事があっては外聞がわるい。これは一先(ひとま)ず容子(ようす)を見に行くに越した事はない。見た上でこれならよいと当りが付いたら、手拭を啣(くわ)えて飛び込んで見よう。とここまで思案を定めた上でのそのそと洗湯へ出掛けた。
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